名盤紹介その2(ヨーロッパ以外編)

 その1(ヨーロッパ編)へ   その3(イギリス編)へ 

 今まで聴いてきたプログレッシブ・ロック作品の中から これぞ名盤!と思った作品を、少しずつ紹介していきたいと思います。
 あえて、メジャーどころは外してあります!(中級者向き?)
 「こんな駄作が入ってるのに、何故あの名作が入ってないんだ?」 など、苦情、ご意見等あるかと思いますが、 あくまで個人的な感想ですので、大目に見てやって下さい!
原則として1アーティストに対し代表作1枚に絞って紹介していきます。
まだ作成途中ですが、とりあえず掲載します。



 アメリカ

・ALBATROSS/SAME(76)

アホウドリを意味するバンド(ちなみにKESTRELはチョウゲンボウ)の 自主制作シンフォ作品。
アメリカは人口が多いだけあって、高水準の自主制作ものが多いですが、 本作もそのうちの1枚に数えることができます。
音色やフレーズから、リック・ウェイクマン、キース・エマーソンの 影響がもろバレなキーボーディストを中心に、 シンセ、オルガン、メロトロンが活躍するきらびやかなイエス直系のシンフォ作となっています。
いかにもマニアの心をくすぐるジャケットも雰囲気たっぷりです。
ゴッドブレスも真っ青の露骨なパクリはご愛敬ということで...、 (自主制作だからバレないとでも思ったのかなぁ?(笑))


・ANGEL/SAME(76)

グレッグ・ジェフリアの分厚いキーボード群が全面に押し出された、 完全ブリティッシュ指向バンド、エンジェルの1st。
サウンドスタイルはKANSAS,STYX,BOSTONらに代表される、 アメリカン・プログレ・ハードの範疇とは異なり、 どう聴いても独特の暗さを持ったブリティッシュ・ハードそのものです。
グレッグの豪華なキーボードも凄い(メロトロンまで炸裂)のですが、 パンキー・メドゥスのハードなギター、特に情感たっぷりのソロも魅力的です。
このアルバムには彼らの代表曲であり、超名曲であるA1 (ここでのグレッグのシンセは、音色、ソロ・フレーズともども カーヴド・エア在籍時のエディ・ジョブソンのそれと似ていると思う)が 含まれていますがが、A2、B2、B5など他にも名曲が揃っています。
アメリカン・プログレは明るく泥臭いから苦手という人に、 偏見を捨て是非聴いて欲しいアルバムです。


・ATLANTIS PHILHARMONIC/SAME(74)

アメリカの初期プログレ名盤の中でも人気の高いシンフォの傑作。
キーボード、ギター、ベース、ヴォーカルを担当するマルチミュージシャンが ドラマーと結成した2人組ながら、壮大な曲構想、ドラマティックな曲展開により、 単調に陥ることなく、最後まで一気に聴きとおすことが出来ます。
その場その場にあった鍵盤楽器のチョイス (オルガンもピアノもメロトロンも良い音を奏でています!)も見事ですが、 ハード・ロック色の強いギターや効果音の導入も的を射ています。
創意工夫の大切さを教えてくれる力作です。


・ATTILA/SAME(70)

後に大成功を収めるビリー・ジョエルが、 無名時代にそれまで在籍していたハッスルズのドラマー、 ジョン・スモールと結成した とことんハードなオルガン・ロック・バンドの唯一作。
この時代特有のアート・ロック〜ハード・ロック的な空気感と、 ジョン・ロード、マーク・スタイン、キース・エマーソンを 合体させたようなスタイルで、 荒々しくオルガンを弾き倒すビリー・ジョエルが 滅茶苦茶格好良いです。(歪まくったオルガンの音色がまた最高!)
制御不能気味のビリー・ジョエルと張り合うジョン・スモールの スケールの大きい(スモールながら)ドラミングもナイスです。
この路線で成功していてもおかしくない内容ですが、 もしそうなっていたらビリーは「オルガン・マン」と呼ばれていたのかも しれないですね。オルガン好きにはマストの名盤です。


・AVIARY/SAME(79)

非常にポップでカラフルな音楽性を持った「鳥かご」という名前のバンド唯一の作品。
安易に「QUEEN系」と表現されていることが多いようですが、 そんな陳腐な言葉ではこの作品の凄さは表現できません。
確かにピアノやギターの音色、特異なベースライン、華麗なコーラスワークなどから QUEENに多大な影響を受けていることは明らかですが、 その他、STYX、NEW ENGLAND、ELO、PILOT、CITY BOY、TRILLION、 ORCHETRA LUNA、BUGGLES、CARS... とフレーズごとに様々なバンドを連想できるほど多彩な面を持っています。 シンフォ、アメリカン・ハード、産業ロック、モダン・ポップ、ニュー・ウエイブ... と言った感じで聴き手に決して的を絞らせません。
重厚なオーケストラ・アレンジが冴え渡るスケールの大きい1曲目に広がる ドラマティックな世界観は、 数多くのシンフォを聴き漁っているベテランプログレファンをもねじ伏せてしまうでしょう。
その後は一転して親しみやすいメロディが満載のポップ・ワールドが展開されますが、 幾重にも重ねられた清涼感あふれるヌケの良いハイトーン・コーラスが 曲の良さを際立ています。
メンバー写真からは知性のかけらもない 脳天気なB級アメリカンハードロックバンドを連想させるのですが、 中身は正反対です。音楽オタクとしか考えられません!
QUEENを愛するとともに、様々なジャンルの音楽を分け隔て無く聴くことの出来る 人にとっては一生の愛聴盤となること間違い無しです。 これだけの才能を持ったバンドが1枚しかアルバムを残せなかったことが 非常に残念でなりません。


・SPECTRUM/BILLY COBHAM(73)

バンド、ソロ問わず、数々の名盤と名演で知られる 超絶ドラマー、ビリー・コブハムによるデビュー・ソロ作。
多くのスーパー・ミュージシャン達の協力のもと 圧倒的な名盤ばかりを残していますが、 第一期マハビシュヌ・オーケストラの活動に 区切りをつけ、新たな音楽を創造しようとする意欲が音に強く表れた 本作を紹介することにしました。
ヤン・ハマー(さすがにドラムは叩いていません(笑))、 トミー・ボーリンら参加メンバーが コブハムの強い思いを受け、 強力かつ個性的なプレイを連発しているのも魅力のひとつです。 (1曲目のQUADRANT 4は、コブハムだけでなく、 ヤン・ハマーにとっても、トミー・ボーリンにとっても、 ベスト・パフォーマンスだと思っています)
ロック、ジャズ、ファンク...様々な要素を取り入れ、 ジャズ・ロックの枠を広げることに成功した 最良の例ともいえるでしょう。


・STAINED GLASS STORIES/CATHEDRAL(78)

現在ドゥーム・メタルの代表格として活躍するバンドとは同名異バンドである カテドラルが残したアメリカン・シンフォニック・ロックの名作。
アメリカにはイエス影響下にあるバンドがやたら多いが このバンドも基本的にイエスの影が見え隠れする(STARCASTLEほど露骨ではない!)。 しかしこのバンドがその他のバンドと一線を画すところは、イエス以外にも クリムゾン、ジェネシスの影響を受けているところでしょう。
ベースのゴリゴリ感はクリス・スクワイヤそのものだし、 多彩なパーカッション群はジェイミー・ミューアを彷彿とさせるし、 メロトロンの使用法はどことなくトニー・バンクスっぽい。
多くの大先輩バンドのエッセンスを取り込み、 自分たちなりに消化しているシンフォニック・ロックという点では アメリカ版イングランドといった感じである(ちょっと褒めすぎ?)。
イングランド同様、イエス、ジェネシス系のシンフォニック・ロック・ファンなら、 絶対に買って損はないでしょう。


・COYOTE/SAME(72)

サウンドからすぐにアメリカ出身であることがまるわかりな 無名ロック・バンドが残した隠れた名盤。
各メンバーが高度な演奏技術と表現力を持っていて、 ブルース、ハード・ロック、カントリー、ジャズ・ロック...を自然に取り入れた、 息の合ったスピーディーな演奏を繰り広げています。
アウトプットは異なりますが、このユニークな音楽性は、 「元祖ディキシー・ドレッグス」と称したくなります。
ギターもドラムもピアノもスリリングで痺れますが、 時にアフィニティのリントン・ナイフを思わせるシャープなオルガンが素晴らしいです。


・FOREST OF FEELINGS/DAVID SANCIOUS(75)

ブルース・スプリングスティーンのE・ストリート・バンドに在籍していた 黒人キーボーディストのデビュー・ソロ。
ブルース・スプリングスティーンというアメリカン・ロックなイメージからは全く想像もつかない、 どこをどう聴いても超弩級のテクニカル・キーボード・シンフォとなっています。
基本的にELPと同じキーボード・トリオなのですが、 ELPと比較して、オール・インストのため歌はないものの、 作曲能力、テクニック、アレンジ、フィーリングなど、どれをとっても鍵盤に関しては互角!、 それどころか、ジャズ系ミュージシャンによる強力なリズム隊が屋台骨を支えているため、 テクニカル度では明らかにこちらに軍配が上がります。
サンシャスは、壮大なスケールで、 流麗にシンセ、オルガン、ピアノを弾き倒し、 勢いあまってギターまで弾いています(これがまた上手い!)
プログレ通信簿で言えばオール5!、完璧な内容で、かつ、 非常にわかりやすいシンフォ・プログレであるにも関わらず、 生まれたフィールドが違うだけで、人知れず消えていくのはあまりにももったいない! キーボード・ファン、シンフォ・ファンはなにがなんでも聴くべき作品であると断言します。
この後もサンシャスはTONE名義の活動も含め、数枚の名盤を残していきます。


・ARDOUR/ETHOS(76)

豪華ツインキーボードを配した、 アメリカン・シンフォニック・ロックの頂点にランクする作品。
ジェネシスファンなら泣いて飛びつくほどの仕上がりです。
方向性はカテドラルと非常に良く似ており、 ジェネシス、イエス、クリムゾンに影響を受けた サウンドを展開しています (カテドラルに比べ、ジェネシスの影響を一番強く感じる) が、単なる模倣に終わらず、名作に仕上がっているのは 一曲一曲が良く練られ、丁寧に磨き上げられているからでしょう。
変拍子を駆使しながらも、美しくつややかな楽曲が ずらり並んでいます。
メロトロンの効果的な使用も光ります。


・GROUP 87/SAME(80)

ザッパバンドのリズム隊(パトリック・オハーン、テリー・ボジオ...)をはじめとする 才能豊かなメンバーが集結し、その叡智の融合により作り出された名盤。
世界最高水準の技術を持つメンバーが揃っているにも関わらず、 その卓越したテクニックを見せつけるような展開は少なく、 少し勿体無いような気もします (国産最高級松茸を香り付けのみに使うようなもの?!(笑))が、 このユニットの凄さは演奏ではなくあくまでもユニークな音楽性にあります。
ジャズ・ロック、テクノ、シンフォ、フュージョン、ポップス... 一見ミスマッチながら多くの異なる音楽要素を丁寧かつ大胆に組み合わせた後、 無駄を極力省いてシンプルにしたような特異な音楽性は まさに「プログレッシブ」と呼ぶにふさわしいです。
ザッパは演奏テクニックだけでなく作曲・アレンジ力や感性 はたまた精神性も超一流のミュージシャンを 招集していたのだということを改めて認識できます。


・HAPPY THE MAN/SAME(77)

非常に高度で安定した作曲&演奏能力を持ったテクニカル・シンフォ・バンドのデビュー盤。
スリリングな面と幻想的な面を併せ持っており、 この両面がアルバムや楽曲を通じて程良くミックスされているので、 シンフォ/ジャズ・ロックの双方のファンにアピールする音になっています。
洗練され過ぎている気もします(個人的にはもうちょっと力強く熱い演奏が聴いてみたい!)が、 プログレファンなら安心して聴くことが出来るバンドといえるでしょう。 私はサックス入りのジェントル・ジャイアント風ジャズ・ロック曲が好みです。
2ndのCRAFTY HANDSもほぼ延長線上の作品ですが、1stに比べ、 シンフォ曲とジャズロック曲との違いが曲によりはっきり分かれています。
彼らは未発表作、ライブ音源、関連作品が多く存在するので、気になる方はそちらもどうぞ。 ライブ盤では、彼らが当時安定したパフォーマンスを行っていたことが分かります。
なおキーボードのキット・ワトキンスは後にキャメルへ加入します。
バンド名の由来にはおそらくGENESISの楽曲が関係していると思います。 どなたかご存知の方教えて下さい。


・TWO FOR THE SHOW/KANSAS(78)

アメリカン・プログレ・ハード界の重鎮中の重鎮、カンサスが 絶頂期に発表した名ライブ盤。
ベスト盤以上にベストな選曲、 スタジオ音源よりも数十倍スリリングで情感豊かなパフォーマンス、 さらには、曲と曲のつなぎを最大限に工夫し、 まるでアルバム全体を一つの「超大作」のようにまとめ上げた構成力... ドラマティックな場面の連続に 幾度も感情の高ぶりを押さえられなくなります。
個人的にはそれまで軽視していた アメリカン・プログレというジャンルに目を向ける きっかけとなった思い出深い作品です。
ヨーロッパのプログレとアメリカン・ロックを融合し、 誰にでもわかりやすい形にまとめあげて、 商業的にも成功を収めたのは本当に「偉大な」功績だと思います。


・BACK TOGETHER AGAIN/LARRY CORYELL/ALPHONSE MOUZON(77)

イレブンス・ハウスの凄腕メンバー2人による連名アルバム。
イレブンス・ハウスがマハビシュヌ・オーケストラに対抗していたとするならば、 この作品はブロウ・バイ・ブロウ〜ワイアード期のジェフ・ベックに 対抗したような作風となっており、 ファンク色を取り入れた超絶クロスオーバー/ジャズ・ロック をたっぷりと堪能することができます。
特筆すべきは、もう1人のギタリストとして フィリップ・カテリーンが参加していることでしょう。 なんとも贅沢なコリエルとカテリーンのツインギターも凄いのですが、 ムザーンの常軌を逸した手数の多さには凄いを通り越して呆れ果ててしまいます。 とくにアルティも真っ青の3曲目はすさまじく この1曲のためだけでも買う価値があるといえます。
ただジャケットの卵?の表情は人を馬鹿にしたように見えてちょっとムカつきます!


・LEVIATHAN/SAME(74)

紙ジャケにてCD再発され入手しやすくなった、 メロトロン好きの間では比較的有名な作品。
いかにもシンフォプログレした壮大なイラストから想像できる音に反し、 基本は古臭いヘヴィーなギターとオルガンを軸とした マウンテン風ブルース調ハード・ロックなので好き嫌いが別れそうです。
しかしその分、時折突如として登場するメロトロン入りの「静」のパートが 浮き彫りとなるので、アルバムを通じダイナミックな印象が残ります。 単純ながらもこの対比はなかなか見事なものです。
もちろんメロトロンの使われ方は半端では無いので、 メロトロン好きは買わざるを得ないでしょう。
個人的にはメロトロンよりも、特にスローな曲で目立ちまくる、 音のつぶれたギターソロがこのバンドの持ち味だと思っています。
アメリカにありがちな、YESやGENESISやGGらに影響を受けたバンドとも、 KANSASやBOSTONあたりの爽快なアメリカン・プログレ・ハードとも 明らかに路線が異なり興味深いですが、 74年にしてはもうちょっと洗練されていても良いのでは?という気もします。 (B級ブリティッシュ・ハード・ロック・バンドが70年頃に、 プログレ指向のアルバムを作ったようなイメージ!?)
イタリアに同名のネオプログレバンドが存在するので、 間違えないように気をつけましょう。


・FOR YOU THE OLD WOMEN/MIRTHRANDIR(76)

広大なアメリカには数多くの自主制作の名盤が眠っていて 多くが再発されていますが、 その中にあってもトップクラスの輝きを放つ テクニカル・シンフォの名作。
イエスとGGを掛け合わせた作風は、同国のYEZDA URFAと似ていますが、 こちらのほうがイエス比率が強く直線的です。
6人編成で時折フルートやトランペットを織り交ぜながら せわしなく楽曲が展開していきます。
ありきたりですが聴けば聴くほど自主制作とは思えない内容の濃さに 驚かされます。


・EXPLORER SUITE/NEW ENGLAND(80)

アメリカのバンドでありながら、 ブリティッシュ・ロック〜ポップスの影響を強く感じさせる 叙情的なサウンドで多くの日本人に愛された ニュー・イングランドの最高傑作。
胸を締め付けるような切ないメロディ、 美しいコーラス・ハーモニー、 立体感のある音の重ね方が絶品のキーボード、 表情豊かなギター、躍動感あふれるリズム隊による ドラマティックな演奏は、日本人なら一度耳にしたら忘れられなくなるでしょう。
今回最もシンフォニックな2ndを選びましたが、 メロディの良さでは2ndを上回る1stも甲乙つけがたい名盤です。 (3rdはトッドがプロデュースしているのですがバンドにマッチしていません... 彼らの他の作品を全部押さえた後に余裕があればチェックしましょう!)
バンド解散後に一部のメンバーが加入したアルカトラスが、 HR/HM史上に残る歴史的名盤を残せたのはイングウェイの実力だけではないということが このアルバムを聴けば良く分かります。


・ORCHESTRA LUNA/SAME(74)

たった1枚のアルバムを残し、惜しくも解散してしまった、 おしゃれでユニークなポップバンドの作品。
ロック、クラシック、ジャズ、ポップスはもちろんのこと、 なんとミュージカルの要素まで取り入れています。 ここまで強烈な個性を持つバンドはそう簡単に見つからないでしょう。
カンタベリー化したFUSION ORCHESTRA(ORCHESTRAつながり!)風の1曲目、 KATE BUSHを先取りしたような3曲目、 ゴージャズなミュージカル風味の4曲目、 泣きのギターソロと手数の多いドラムが絡み合うラスト... などなど場面ごとに数え切れないほどのアイデアが詰め込まれています。
好き放題やっているように見えますが、アルバム全体を聴くと統一感がとれているのは プロデューサー、ルパート・ホルムズの手腕によるものかもしれません。
各メンバーの演奏力も非常に高度で、 難易度の高い楽曲でも力みを感じさせずゆとりのある個性的な演奏を聴かせてくれます。 オペラティックなボーカル(なんとメンバー7人中、6人が歌える!)も 聴いてるうちにくせになります。
この斬新な感覚は74年という時期を考えるとあまりにも早すぎます。 21世紀の今になって時代がやっと追いついたといった感じでしょうか? 完成度のみならず録音状態も素晴らしいので、 最近の作品と言われても信じてしまいそうです。
モダン・ポップと言われていますが、ここまで来ると もはやモダン・ポップを通り越したプログレッシブ・ミュージックと断言できます。


・STARCASTLE/SAME(76)

イエスのコピーバンド?というか 「実はお前らイエスだろ?」と突っ込みを入れたくなるような 迷バンド、スター・キャッスルの1st。
方向性が似ているのではなく ギター、ベース、シンセ、オルガンの音色やフレーズ、ボーカル、コーラス、 そして肝心な楽曲までも似ているのだから恐れ入る...
確かにスケールの大きいテクニカルなプログレッシブ世界を 展開しているが...
特にA1は圧巻である。 ROUNDABOUT,YOURS IS NO DISGRACEを足したようなメイン部分で 曲が進んでいき、中間部はCLOSER TO THE EDGEときて ラストはSIBERIAN KHATRUとオイシいとこどりである。 (イエスの良いところを1曲に凝縮したような曲!)
イエスファンでもし本作を聴いていない方がいれば 必ず押さえておきましょう。
(周りにそういう人がいれば必ず薦めましょう!)
きっと大喜びするか、大激怒するか、大笑いするかだと思うけど... とにかくインパクトは絶大。


・STARDRIVE/SAME(74)

シンセマニア必聴のインスト作品。
主要メンバーであるロバート・メイソンのシンセへのこだわりは凄い。 なんと鍵盤楽器としてシンセしか弾いていない! さらにジャケット裏では バンドメンバーでは無く、愛しのシンセと仲良く2ショット! もうここまでくれば立派なものである。
内容は時代を感じさせるシンセサウンドの嵐! シンセファンにとってこんなに贅沢なアルバムはないでしょう。
シンセのみの神秘的でおとなしめの曲もあるが、 バンド編成になるとスペイシーでファンキーなシンセ・フュージョン!? に早変わりする。特に最初とラストの曲は熱い演奏で格好良い。 (ラスト曲のキメ箇所では掛け声まで入っており、非常にロックしていてゾクゾクする!)
キーボードがシンセ中毒の中期RTF風サウンドともいえるかも。 こんなバンドは他にいないでしょう。 時代のなせる技ともいえるけど...


・ASSAULT ON MERRYLAND/SURPRISE(77)

70年代初期イギリスのマイナープログレバンドに通じるような素朴さと、 ジェネシス風のカラフルなキーボード、美しいボーカル・ハーモニーが魅力のシンフォの名盤。
アメリカのバンドであるがプログレハード色は皆無であり、 どこかしら牧歌的で湿った音、お伽噺を基にしたコンセプト、 キャラバンのIN THE LAND OF GREY AND PINKに似た非常に手の込んだジャケットの絵、 などなど全てがブリティッシュなのである。 例えば、クレシダやファンタジーが大胆にシンセを導入し70年代後半にアルバムを作っていたら こんな感じになったのではないだろうか?
ハードで押しの強い曲からソフトで叙情的な曲まで様々なタイプの曲が 織り混ざっている分聴いていて飽きが来ません。
エレキとアコースティックをうまく弾き分けるギター、 オルガン、ピアノ、シンセそれぞれの使いどころを心得ているキーボードの 豊かな表現力には驚かされます。 また、ボーカルは、素朴な歌(コーラスがまた良い)だけでなく、 時折、フルート、トランペット、ピッコロを吹いており、 ファンタジックな雰囲気をさらに盛り立てています。
70年代ブリティッシュ・マニア、特にクレシダあたりが好きな人は 気に入ること間違いなし。 アメリカは深みがない...と思ってるような人に是非聴いてもらいたいアルバムです。


・TODD RUNDGREN'S UTOPIA/SAME(74)

音楽神トッド・ラングレンが結成したユートピアによる衝撃的な大名盤。
トッドの数多くの作品群の中に、 プログレ色の強いものが数作品ありますが、 その中でもっともわかりやすい鮮烈なプログレ作品といえます。
いきなりのライブ音源、キーボード3人体制、旧B面の30分越え超大作... とにかくやりたい放題やっています。 (この頃のトッドは特に頭の中身が普通じゃない!)
プログレをやっても一味も二味も違う... というかプログレのちっぽけな枠には収まりきらない 圧倒的なパワーにあふれています。
その後、ロジャー・パウエル、カシム・サルトンらが加わった 盤石のポップ・バンドとしてのユートピアももちろん最高なんですが、 この路線での作品をもっとたくさん作って欲しかったなあ〜。


・TRILLION/SAME(78)

ジャケットやグループ名がネオクラシカルメタルバンドっぽい! トリリオンの1st。
中身は純粋なドラマティック・アメリカン・プログレ・ハード路線 そのもので、タッチやニュー・イングランドと同系統のサウンドであるが ボーカルの上手さが光っており、彼らの名作を上回るほどの出来映えである。
それもそのはず、後期TOTOで活躍する名ボーカリスト、 デニス(ファーギー)・フレデリクセンが在籍しており 様々なタイプの曲を表情豊かに歌い上げている。
各メンバーのテクニックも高度であるが、 変に出しゃばることなく、程良く自己主張していて気持ちがよい。 コーラスワークも素晴らしく、 都会的なアレンジ(KESTRELっぽくもある、エレピのせいか?)もあって すっきりした、素晴らしいバランス感覚に満ちた作品である。
コンパクトだが美しさが凝縮されているバラードA4は必聴の名曲です。


・SACRED BABOON/YEZDA URFA(76)

ジェントル・ジャイアント(以下GG)とイエスを足して2で割ったような ひねくれたテクニカルサウンドが展開される風変わりな作品。
当時大人気だったイエスに影響を受けている点は理解できるが この時代にしかもアメリカでGGの変態サウンドを取り込み、 完全に消化しているところが恐ろしい。
アコースティックギターの重ね方、時折飛び出すリコーダー、 ヴィブラフォン、パーカッション、 そして変拍子への偏執的なまでのこだわり、聴き手を次々と裏切る曲展開、 はてはヒゲ面のメンバーが多い!等、 サウンドから似なくてもいい格好悪いルックスまでGGと似てる!(^^;)
自主制作だというが、ポテンシャルは完全にメジャー級!大おすすめ盤である。


・ZAZU/SAME(75)

初期スティクスで知られるWOODEN NICKELからリリースされ、 70年代アメリカン・プログレの傑作として マニアに古くから知られている一品。
KANSAS、STYXをアメリカン・ロック寄りにしたような 本格的な王道スタイルが貫かれており、 雲一つない青空、果てしなく続く大地を連想させる 爽快極まりない内容となっています。
キャッチーな楽曲、ダイナミックな演奏、きらびやかなプロダクションは、 同国に多い自主制作勢とは明確な格の違いを感じさせます。
プログレ、ハード・ロック、アメリカン・ロック... ジャンルを問わず、自信をもって紹介できる鉄板の名盤です。


・ZOLDAR & CLARK/SAME(77)

意味不明な醜悪ジャケと謎が謎を呼ぶバンド名が印象深い アメリカン・プログレの幻の一品。
デュオと思いきや、実はARCANGELのJEFF CANNATAを含む大所帯で、 クリムゾン、イエス、EL&P、GG... さらには70年代イタリアン・ヘヴィ・シンフォ風要素も加えた 「どプログレ」な内容となっています。
さらにはテープをいじり倒すなど、 サイケ〜アート・ロック的なアプローチまで飛び出します。
恐らくプログレ・マニアが集結して 自由にアイデアを出し合って制作されたんでしょう。
いわゆるアメリカン・プログレ・ハードのようなアメリカらしさは皆無で、 大陸的な爽快感も無ければ、 産業ロック的な分かりやすさもありません!(笑)


 カナダ

・IN THE MIDDLE OF THE NIGHT/AERIAL(78)

アメリカン・プログレ・ハード、メロディアス・ハードに ブリティッシュ・ポップ、ニッチ・ポップを交配し、 見事に美しい花を咲かせたかのような、カナダの知られざる名バンドの傑作デビュー盤。
前述のとおり手を変え品を変え音楽性を変化させながら、 次々と聴き手を魅了していきます。 STYX、AVIARY、NEW ENGLAND、TRILLION、CITY BOY、KLAATU、CHARLIE、SUPERTRAMP... 場面場面でいろいろなバンドが脳裏に浮かびます。
ただいろいろなことに手を出していながら、 アルバムを通じてメロディの良さが貫かれています。 (ビートルズのトリビュートバンドが母体になっているだけあって美メロの宝庫です)
演奏力も文句のつけようがなく余裕が感じられます。特にメロトロンやシンセを自在に操る キーボーディストがアルバムをドラマティックに仕立て上げています。
もっと評価されるべき作品なのに評価が低いのは、 変幻自在すぎる音楽性が災いし、ニッチ過ぎて扱いづらいせいだと思います。


・ET CETERA/SAME(76)

ジェントル・ジャイアントが世界中のアーティスト (PFMは有名ですね)に多大な影響を与えたことを物語る、 カナダのGGフォロワーによる唯一の名作。
「自分達は、『イエスなんかよりもずっと凄いことをやっているジェントル・ジャイアント』 よりも凄いことをやっている!」と言わんばかりの内容で、 GGと真正面に向き合い、手本としながらも、 時に本家を上回る、クールさ、ひねり、しなやかさをみせつけてくれます。
いかにもカナダらしい気品が漂う フランス語の女性ヴォーカルもジャストフィットしています。 「オンド・マルトノ」はきっと本家も使ってないですよね?!
いろんなバンドにフォロワーが存在しますが、 このバンドは「フォロワーとはかくあるべき」という理想的な姿勢を 示してくれているように思います。
GGファンなら、YEZDA URFAとこのET CETERAは絶対に押さえておきましょう。


・THE GIST OF THE GEMINI/GINO VANNELLI(76)

カナダのメジャーなAORボーカリストという認識を覆す超弩級のプログレ作!
ピアノから顔を覗かせたどこかナルシスティックな雰囲気 (私にはさらし首のように見えて笑えます!)のジャケットに 思わず敬遠してしまいそうになりますが、 内容はジャケットからは全く想像が付かない、 まるで万華鏡のようなきらびやかなものとなっています。
前半はスティービー・ワンダーが最も創作意欲に溢れていた黄金期の歴史的名盤 INNERVISIONS、TALKING BOOKあたりを彷彿とさせる格好良い曲が並んでいます。
やわらかいシンセ音、耳に心地よいクラビネット、パーカッション、 そして斬新なコード進行などがかなり酷似しています。 ボーカルもスティービーとは声質が違いますが、この人も伸び伸びと歌いあげるタイプで 聴いていて気持ちがよいです。
ここまではさほどプログレ度は高くないんですが(といっても私は前半も大好きです)、 後半の組曲がプログレど真ん中!でものすごいことになっています。
先程のスティービー色に加え、ELPのTARKUS、 トッド・ラングレンのINITIATIONなどをごちゃ混ぜにしたような スリリングで高揚感のある壮大なプログレ組曲となっており鳥肌モノです。
ということで、前後半トータルで見ると プログレとしてもポップスとしても楽しめる非常においしいアルバムです。
ちなみに無名時代のジェイ・グレイドンも参加して滅茶苦茶格好良いギターソロを弾いてます。
この時代の作品は、オーケストラと共演した組曲を含むA PAUPER IN PARADISE、 スリリングなタイトル曲を含むAORを代表する名盤BROTHER TO BROTHERなど、 本作と同様のプログレッシブ指向の楽曲が多くプログレファンにお薦めです。
この作風でずっとアルバムを出し続けて欲しかった...


・HOPE/KLAATU(77)

カナダを代表する最高のポップ・バンドによる歴史的な名盤2nd。
「ビートルズの覆面バンド?!」と称され、多くのポップス・ファンに愛されていることからも わかるように、リリースした全作品がマスターピースと呼ぶにふわさしい内容となっていますが、 この2ndではプログレ〜シンフォ色が最も濃く、 ハッとするような仕掛けが数多く盛り込まれ、 ロンドン交響楽団によるオーケストラ・アレンジが施された意欲作となっています。
もちろんビートルズに匹敵する美しいメロディはそのままなのですから、 ポップスの名盤でありながらプログレの名盤でもあるという 離れ業をやってのけた稀有な作品ともいえます。
プログレ・バンドがポップ化するのは日常茶飯事ですが、 超メジャー級のポップ・バンド、アーティストが本気でプログレをやると とんでもないことになる好例です。 (クイーンの2ndやユートピア初期作なんかまさにそれ!)


・MILKWEED/SAME(78)

キーボード(特にシンセとピアノ)が主導権を握る7人編成バンド、 ミルクウィードのシンフォニック作品。
ナレーションのようなボーカルはあくまでも副次的なもので、 スリリングで美しいインストパートがこのバンドの売りとなっています。
SF的広がりを感じさせるA面の出来が素晴らしく、 特にA3は、ハードで攻撃的なリズムの上を、 浮遊感あふれるシンセが最後まで暴れ回り、 まるで無限へと登りつめていくような感覚を覚える劇的な名曲です。
演奏水準もかなり高度であり、キーボードだけでなく、 リズム隊の切れの良さが目立ちます。
B面はA面に比べて、冗長な部分が多く、若干曲の質が落ちますが、 A面だけでも十分聴く価値がある作品でしょう。


・PARALLEL ECCENTRICITIES/NATHAN MAHL(82)

カナダが生んだ独創的なテクニカル・プログレ〜 シンフォニック・ジャズ・ロック・バンドによる名盤1st。
GG、UK、イエス、ジェネシス、ブラフォード、 ハッピー・ザ・マン、ジェフ・ベック(ワイヤード)あたりのテクニカルなキメ部分だけを寄せ集めて 強引に切り貼りしたあげく高速演奏したようなハチャメチャなサウンドは 今聴いても相当なインパクトがあります。
自主制作によるチープなプロダクションですが、 その分、荒々しくスリリングな演奏の格好良さが際立っているといえます。
個人的には、ジャンルも音も違うものの、 WATCHTOWERを先取りしたようなスタイルだと思っています。
本作発表後、バンドは17年という 特大ブランク(←1stで燃え尽きてしまい、完全復活までに時間が必要だった?!) を経て奇跡の復活(2ndも名盤)を遂げ、その後も数々の傑作を残すとともに、 中心人物である故ギ・ルブラン(ル・ギブランではない!)が キャメルに加入するなどシーンを大いに盛り上げていきます。


・POLLEN/SAME(76)

カナダを代表するシンフォニック系の名盤。
イエス・タイプと言われことが多いが、さほど似ているようには感じられません。 鮮やかな音色の楽器群による派手で攻撃的な部分 (同国&同年発表のシンフォニック・スラムの1stとも似ている)と 混沌とした浮遊感のある繊細な部分が同居するシンフォニックな音像は ポーレン独自のものでしょう。
歌や録音状態(もっと広がりがあると良いのだけど...)などに若干の難はありますが、 間違いなくカナダのトップクラスに位置する作品です。


・A TASTE OF NEPTUNE/ROSE(77)

カナダのメロディアス・ハード・バンドの2nd。
第1期ディープ・パープルから派生した名バンド、ウォーホースを 77年という時代にあわせてアップデートさせたようなハード・ロックですが、 ドラマティックな楽曲をギター、オルガン、ボーカルが競うようにして 泣いて泣いて泣きまくる展開は、プログレファンの心にも激しく訴えるものがあるはずです。
北米出身ながらどう聴いてもイギリスのバンドとしか思えない音作りは、 エンジェルやニュー・イングランドらと同系等と位置付けてよいでしょう。
捨て曲が全く存在せず佳作ばかりであり、 疾走曲とバラード、メジャー曲とマイナー曲をうまく配置したアルバム構成が見事です。


・J'UN OEIL/SLOCHE(75)

カナダのテクニカル・ジャズ・ロック・バンドによるデビュー盤。
相当欲張りなバンドで、 イエス、ジェントル・ジャイアント、 EL&P(というよりはキース・エマーソンのピアノ・パート)といったプログレ勢から、 マハビシュヌ・オーケストラ、RTF、ジェフ・ベック(ブロウ・バイ・ブロウ〜ワイヤード時代) といったフュージョン勢、さらにはフレンチ・ジャズ・ロックあたりも取り込んだような 豊潤な音楽性を楽しむことが出来ます。
また、いかにもカナダのバンドらしく アメリカ風のダイナミックさ、アグレッシブさ、グルーブ感と、 ヨーロッパ風の知性、ユーモア、ヒネリ、繊細さの両面を 兼ね備えているのも強みです。
洗練度がアップし、女性的なしなやかさが感じられる2ndも傑作なので、 この時代のジャズ・ロックが好きなら1st、2ndの両方を セットで押さえておきましょう。


・SYMPHONIC SLAM/SAME(76)

当時、世界に数台しかなかったギター・シンセを操る ティモ・レイン率いるシンフォニック・スラムの1st。
ギター(ギター・シンセ)、キーボード、ドラムという 変則3人編成バンドですが、 とにかくギター・シンセを売りにしていることは、 楽器クレジット欄に"360 SYSTEMS POLYPHONIC GUITAR SYNTHESIZER"と 記述されていることからも充分うかがえます。
全編通じて、後にレインボウに加入するデヴィッド・ストーンの 多彩できらびやかなキーボード群と ティモの、時代を感じさせるコテコテシンセ音のシンセ・ギターがぶつかり合い スペーシーで広がりのあるシンフォニック世界が展開されています。


・ASTRAL PROJECTOR/ZON(78)

明快なメロディが満載のカナディアン・プログレ・ハード・バンドによるデビュー盤。
力強く躍動感あふれるメジャー級のサウンドは STYXが引き合いに出されることが多いですが、 曲によっては、ANGEL、TOUCH、NEW ENGLAND、AVIARY等が思い浮かびます。
カナダのバンドではありますが、アメリカン・プログレ・ハード 黄金時代の旨味をアルバム1枚に凝縮したような名盤と言えるでしょう。
華麗で力強いメジャー級の演奏力も魅力的です。
ライブを含む4枚の作品を残してバンドが終焉を迎えた後も、 メンバーが様々な形で音楽活動を続けていくことを考えると、 非常に高度な音楽集団だったことがわかります。


 ブラジル

・CRIATURAS DA NOITE/O TERCO(75)

70年代のブラジリアン・シンフォを代表するオ・テルソの2nd
A面は泥臭い部分が多く、 1曲目から「HEY AMIGO〜!」と歌われ、いきなりがっかりしますが、 B面では、A面と同バンドとは思えないほどの美しい曲が並んでいます。 (逆曼陀羅組曲状態!)
ピアノ&ストリングスアレンジの上に、美しいハーモニーの歌がのった (歌い方、コーラスパートなどにイタリアのバンドと似た感覚を覚えます) 心が洗われるようなタイトル曲も良いのですが、 究極は、ラストの大作「1974」です。 テクニック的にそんなにうまいわけではないのですが、 メロウで美しいフレーズが次から次へと繰り出されていきます... 世界に数多くのシンフォ名曲が存在しますが、 ここまでドラマティックで贅沢な曲にはそう滅多に出会えるものではないでしょう。
本2ndと3rdを1枚にカップリングしたお得なCDが出てますが、 これは、オリジナル母国語バージョン (英語のバージョンのものも存在するが、母国語が良いのは当然! マクソフォーネの例もあるし...) でもあるので、断然お薦めです。
ちなみに3rdはテクニック、アレンジが格段に向上、 ブラジル色を微妙に取り入れるなど曲のバラエティも豊かになり 捨て曲も無く良質の作品となっています。 (「1974」を超える程の名曲が無いのが惜しい...)


・MATANCA DO PORCO/SOM IMAGINARIO(73)

ミルトン・ナシメントのバックとしても活躍した ミナス派の実力派ミュージシャンによるバンドのラスト作であり最高傑作。
デビュー時は時代背景もあってか、 初期フォルムラ・トレっぽいサイケでポップな歌もの(これはこれで良いです!)を 演奏していた彼らですが、この3rdでは歌を封印するなどスタイルを大幅に変更し、 ロック、クラシック、ジャズが自然な形で溶け合った全く新しい音楽を創造することに 成功しています。
リリカルなピアノが奏でるワルツに導かれ、ギターが泣きまくり、 フルート、ストリングスまで導入しながらラストまで怒涛の展開を繰り広げていきます。
アイデアも演奏力も超一流の ブラジルのロック草創期を代表する大名盤といえるでしょう。


・SOM NOSSO/SOM NOSSO DE CADA DIA(77)

74年発表のデビュー盤SNEGSが傑作として広く知られているブラジルの プログレ・バンドの2nd。
ブリティッシュ・プログレを下敷きにした1stから驚異的な成長を遂げ、 2ndでは自分たちのスタイルを完全に確立しています。(しかも2通りも!)
まず前半(旧A面)はブラジルらしさをふんだんに押し出したレア・グルーヴの傑作... とことんメロディアスなファンク〜ソウルの名曲が揃っています。
この前半のおかでげプログレ・ファンの評価がすこぶる悪いようですが、 音楽性、洗練度、演奏力、バンドの一体感... どこをどう聴いても圧倒的に1stを凌駕しています。 そして後半(旧B面)は1stをダイナミックかつテクニカルにしたような、 シンフォニック・ジャズ・ロックをやっています。 特に勢いづいたときの爆発力、破壊力には目を見張るものがあります。 (ラテンの血のなせる業!)
アルバムの統一性だけ目をつぶれば、 迷いが無く吹っ切れた感のあるこの2ndにこそ 彼らの摩訶不思議な魅力が凝縮されていると思っています。


 アルゼンチン

・EL SACRIFICIO/ANACRUSA(78)

エンニオ・モリコーネ風の映画音楽にフォルクローレ色を足したようなサウンドの 南米叙情派を代表する名盤。
フルート、オーボエ、ヴァイオリン、サックス、バンドネオンなど アコースティック楽器を中心とした演奏が格調高い雰囲気を放っており、 粘っこい泣きのギター以外にロック色はあまり感じられず、 似たバンドは思いつきません。
こよなく美しく儚げなメロディを体と心に優しくしみわたるような 木管楽器の柔らかい音色で奏でられると、音楽だけで映像が浮かんでくるような感じで、 もし映画の感動的なシーンに使われていたら泣いてしまいそうです!
感動系といっても、いわゆるユーロ系の泣きとは明らかに違い、 南米らしい素朴で自然なものとなっています。
とにかく感動したい人は絶対に聴きましょう! 次作FUERZAも本作と同傾向同レベルの素晴らしい名盤です。
ちなみに初期もやってることは基本的に同じですが、 曲が短く、泣きの部分が薄く、素朴で全体的にあっさりしています。 本作を多少クドく感じる人は初期のアルバムの方をお薦めします。


・AUN ES TIEMPO DE SONAR/BANANA(79)

アルゼンチンのシンフォの素晴らしさ、レベルの高さを知らしめる名盤。
バンド名の「バナナ」通りのとても甘いメロディを 高度で安定した演奏がしっかりと固め、 その上を歌い上げる爽やかな歌やコーラスがなんとも心地よいです。
最大の特徴はアルバム全体の雰囲気... ゆったりとしたソフトな感覚はセバスチャン・ハーディあたりにも通じると思います。 (いかにも南半球らしく、ヨーロッパなどからは出て来ないタイプ)
耳にやさしい分、最初聴いた時のインパクトは弱いものの、 聴くたびにじわじわと美しさがしみてきます。
演奏も楽曲もプロダクションもトップクラスなので、 安心して極上の音世界に身を委ねることが出来ます。


・ANABELAS/BUBU(78)

アルゼンチンという国のイメージと、B級くさいジャケットから、 ありがちなイタリア風シンフォ・サウンドを想像してしまいがちですが、 このバンドはアルゼンチンの中でも異色の存在です。
テクニカルでダークでねじ曲がったキメのやたら多い楽曲を 強力リズム隊、ギター、フルート、サックス、ヴァイオリンが ど派手に演奏し続けていきます。
「アルゼンチンのクリムゾン」と例えられることもありますが、 実際にはもっとオリジナリティあふれるアプローチをしており、 クリムゾンに影響は受けているのは明らかながら、 いわゆる本家を超えられない亜流クリムゾン・バンドとは明らかに一線を画す、 南米屈指の超本格派バンドといえるでしょう... というより南米どころか世界レベルで見ても全く遜色ありません。
アルゼンチンで同じような辛口系バンドにはALASがいますが、 メンバーが多い分、ALASよりも派手でわかりやすいです。
完全分業制(作曲&アレンジ専任者+プレーヤー達)ということですが、 作曲、アレンジ、演奏が見事なまでに調和しています。
また、サウンドクオリティが南米とは思えないほど良く、 音の抜けがとても気持ちよいです。(SERU GIRANの1stとは雲泥の差!)
フレーズや音色が時折フリップになるギターと、 フルート、サックス、ヴァイオリンという楽器から、前中後期が合体した夢の豪華版クリムゾン (フリップにイアン・マクドナルド、メル・コリンズ、デヴィッド・クロスの3人が揃って 演奏しているのを想像するだけでよだれが!...) を連想するのもありでしょう。攻撃的クリムゾン好きなら必聴必携の名盤です。


・CRUCIS/SAME(76)

アルゼンチンのバンドはどこかイタリア臭のするものが多いですが、 このクルーシスもイタリアンロック好きにはたまらないバンドでしょう。
ギターとオルガンを軸として情熱的にごりごり押しまくり、聴くものを圧倒します。
泣きメロと要所要所でキメフレーズを交互に繰り返しながら パワーあふれる演奏が展開されます。(少々強引ですが...)
2ndも基本的に同じような素晴らしい内容ですが、 1stと比べ、洗練され、強引さが無くなった分、野生味(泥臭さ?)が失われています。
CDでは、1stと2ndが1枚にまとまっているのでお得です。
しかし、Made in Argentinaと書いてあるのに 裏ジャケに怪しいカタカナの字体で「クルシス」と書かれてるのが何とも...(^^;)
このCDを買うのは、日本人だけなんでしょうか?
なお、2nd発表後、ベーシストのグスタヴォ・モンテサーノが発表した、 アルゼンチン・プログレ界のオールスター勢揃いの豪華ソロ「HOMENAJE」には CRUCISのメンバーも全面協力していて、実質的にCRUCISの3rd的な内容となっています。 特にCDでは、ボーナスでCRUCISの未発表曲が2曲入っているので、 ファンは絶対に見逃さないようにしましょう!


・LA MAQUINA DE HACER PAJAROS/SAME(76)

アルゼンチンシンフォニックロックを代表する名作!
個人的には、中南米に目を向けさせるきっかけとなった思い出深い作品です。
(この作品を聴くまでは、中南米のロックを軽視していました...)
キーボーディスト2人を擁し、テクニカルなギターとともに延々と白熱した演奏が展開されます。
イタリアよりも熱く、一度爆発したときのエネルギーには手が付けられないほど... 南米パワーはすごいです!
国、年代がおなじせいか、クルーシスと似た部分も多いです。
録音がもうちょっと良ければ...とも思いますが、録音が悪い分、野生味あふれ、そこがまた 魅力的であったりもします。
またメロディラインが人なつっこくて、覚えやすい(良い意味で適度にポップ)のも魅力です。
ジャケットにはメンバーの写真が載っているのですが、 何故か、顔が青や緑色に塗られています。
子供のいたずらじゃあるまいし... ちょっと、このジャケットだけはいただけないですね(内容がこんなに素晴らしいんだから...)


・PABLO EL ENTERRADOR/SAME(83)

南米プログレ、または、80年代プログレを語るうえで、 絶対に外すわけにはいかないシンフォ名盤。
情熱的に狂おしく畳み掛けるCRUCISとも、 フォルクローレを見事に昇華したANACRUSAとも異なる、 やわらかかつさわやかなアプローチで、 いかにもアルゼンチンらしいシンフォを追及しています。
どの曲も一歩間違うと、泣きが強すぎてベッタベタになりそうなんですが、 透明感あふれるエレピをはじめ、全体的に優しい音づくりが 作用していて、さらりと耳に馴染みやすいのが最大の特徴といえます。
アルゼンチン×1983年という特殊な環境・時代のかけあわせも、 このアルバムの輝きを特別なものにしているように思います。


・SERU GIRAN/SAME(78)

元SUI GENERIS,LA MAQUINA DE HACER PAJAROSのチャーリー・ガルシア、 元ALASのペドロ・アズナール(後にパット・メセニー・グループへ加入)ら アルゼンチンを代表するミュージシャン4人によって固められたスーパー・バンドのデビュー作。 (これでCRUCISのグスタヴォ・モンテサーノが入れば完璧かも?)
各メンバーの経歴を考えると、テクニカルな曲やソロバトルを期待したくなりますが、 彼らの作品はおとなしめで基本的にメロディーの美しいポップな歌ものとなっています。 (テクニックを誇示することなく、とにかく良い曲を作り、 心を込めて演奏することに重点を置いているという点では MR.BIG(アメリカのほう!)の方法論と似ているかも...)
後に世界レベルのミュージシャンとなるペドロ・アズナールのベースは ライン、音使いともジャコパスが乗り移ったようなプレイを披露しており とにかく心地よいです。(こりゃメセニーも認めるわけですね...)
私の持っているのは再発CDなのですが、 もとの録音状態が悪いのか盤起こしなのかとにかく音質が悪い! (なかなかこんなヒドい音質のCDにはお目に(お耳に?)かかれない)
内容が素晴らしいだけに非常に残念です。原盤は音良いのかなぁ?


・ENERGIA NATURAL/SOLUNA(77)

ARCO IRISのメンバーを中心に結成され、 シーンの重要人物であるチャーリー・ガルシアもゲスト参加している 歌ものシンフォの名盤。
穏やかで気品に溢れたナチュラルな演奏の上に、 イタリアに近いけれどやはりどこか異なるアルゼンチンらしさ全開の 男女ヴォーカル、コーラスのハーモニーが淡く美しく彩りを加えていきます。
パッションあふれる歌唱の素晴らしさに耳を傾けていると、 バックの演奏陣もまるで歌をうたっているかのような感覚に陥ります。
押しつけがましくなく、 さりげなく感動できる名品といえるでしょう。


 ウルグアイ

・GOLDENWINGS/OPA(76)

ウルグアイのジャズ・ロック・バンドのデビュー盤。
ラテンの血を活かしパーカッションを大胆に押し出した激しいリズムの上を シンセとエレピを織り交ぜたキーボードが弾きまくる フュージョン/ジャズ・ロックのスタイルは、 まるでチックコリアが率いたリターン・トゥ・フォーエヴァー の初期と中期をうまくブレンドしたような感じです。
アイアートがプロデュースしていることもあってかプロダクションは超一流で 当時の世界トップレベルと比べても遜色ありません。
エルメート・パスコアールがゲスト参加して爽快なフルートを披露したり、 アイアートの名曲TOMBO IN 7/4が取り上げられていたりと聴き所がたくさん存在しますが、 聴き手が思わず体を揺り動かしてしまうような強力なグルーヴ感が彼らの最大の魅力だと思います。


 キューバ

・EN BUSCA DE UNA NUEVA FLOR/SINTESIS(78)

キューバを代表するクラシカル・シンフォの大名盤。
独特な音楽文化で有名なキューバですが、 本作はロマンティックなメロディ、 情熱的なヴォーカル&コーラス、 厳かなキーボード群(チェンバロ、ピアノ、シンセ...) 激しい場面展開...と、あらゆる要素が イタリアのクラシカル・シンフォ名盤群に類似しています。 (類似度はアルゼンチンもの以上でしょう)
当時メンバーがイギリスの著名なバンドを解釈してたまたま似てしまったのか、 実際にイタリアものを聴いていたのか興味深いところです。
プロダクションもしっかりしていて 辺境・B級らしさを微塵も感じることなく シンプルに感動できる名作です。


 イスラエル

・FOURTEEN OCTAVES/SAME(75)

イスラエル・プログレ界の最重要人物、YONI RECHTERが、 名盤INTENTIONSを発表する前に、 もう1人のキーボーディストAVNER KENNERと組んで 発表したツイン・キーボード・バンドの唯一作。
時折ジェントル・ジャイアントやカンタベリー系・ジャズ・ロックに似た 場面はあるもののもちろんそれだけで終わらず、 先読み不可能な意表を突きまくる展開を繰り出しながら、 結果としてコンパクトでポップな歌ものに仕上げています。
ユーモア精神にあふれ、一筋縄ではいかない仕掛けやアイデアが多いものの、 類まれなるセンスのおかげでとても流麗で洗練された印象を受けます。
YONI RECHTERは唯一無二の天才ですね。 辺境のイメージとは反対に、この時代の最先端を走っている感じがします。
演奏も強力、ベースやドラムはもちろん、 転がりまくるピアノやエレピが最高に気持ち良いです。 また決してうまくは無いものの、 ヘブライ語の優しい響きがとても印象に残ります。
ニッチ・ポップ・ファンにも強くおすすめしたい一品です。


・POOGY TALES/KAVERET(73)

イスラエルのプログレ黎明期を象徴する名盤。
イスラエルの最重要人物YONI RECHTERを筆頭とする 才能あふれる7人のミュージシャンが集った スーパー・バンドの1stになります。
メンバー一人一人が自由な発想で、 やってみたい音楽・アイデアを数多く持ち込んでいるのですが、 それらが喧嘩することはありません。 息のぴったり合ったアンサンブルで丁寧に紡ぎあげ、 奇跡的な調和を生んでいます。
メンバーは全員40才以上じゃないの? と疑いたくなるほど、 各人のミュージシャンシップが熟練しています。
NO NAMES、FOURTEEN OCTAVES、SHESHETらを少しでも気にいった方は、 必ずこの作品まで遡るようにしましょう。
イスラエルの一連の名盤に共通する独特な視点(GG+カンタベリー風味) は既にこの時点でも感じ取ることが出来るのが面白いです。


・NO NAMES/SAME(75)

イスラエルのプログレッシブ・ロックの出発点に位置付けられる、 歴史的名盤。
SHEM TOM LEVI、SHLOMO GRONICH、SHLOMO YDOVという3名の個性豊かなア―ティストが集結し、 化学反応を起こして生み出された各曲は、 既成概念にとらわれず、ロックの枠にもおさまらず、 自由奔放であり、聴くたびに新たな発見があります。
華々しい経歴を持ったメンバーが集まっている点で、 アルゼンチンのSERU GIRANが思い浮かびますが、 若い才能がぶつかりあいシーンを開拓していることから、 インドネシアのGURUH GIPSYに近い存在だと思っています。
このアルバムの底の深さを言葉で表現するのは本当に難しいです。 何度か「イスラエルのジェントル・ジャイアント」という 喩えを見かけましたが苦し紛れの表現のように思います。 (気持ちはよ〜くわかるんですが...)
個人的には時折OPUS AVANTRAと似た空気感を感じるんですが、 私だけかなぁ...


・SHESHET/SAME(77)

イスラエルのシンフォニックジャズロックバンド。
ジャズロックといっても、スリリングな展開やソロバトルで聴かせるようなタイプではなく 練り上げられた楽曲をじっくりと演奏して聴かせるような楽曲重視タイプであり、 シンフォニックといっても甘さ控えめで、大人の音楽といった感じでもあります。
アルバムを通じてフルートが大活躍しており、 まるでさわやかな風が吹き抜けていくような気分になります。
多くの音楽要素を取り入れたさまざまなタイプの曲を演奏しており、 曲毎に印象が異なるためアルバムを通して聴いたあとのインパクトが弱い気がします (何をやりたいのかが分かりにくく、焦点が定まらない)が、 1曲ごとの出来は文句無く素晴らしいもので、相当高いクオリティを誇っています。 難解さを全く感じさせること無く曲が展開していきますが、 実際良く聞くとかなり複雑なことをやっており、 かなりのテクニック集団であることもわかります。
本当に様々な曲をやっているので表現が難しいですが、 最も似ているバンドはハットフィールズ(断言!)
女性ボーカル、エレピ、フルート、程良い甘さ、練られた楽曲、 そして何よりもアルバム全体に漂うクールな雰囲気が想起させるのだと思います。
カンタベリー、特にハットフィールズのファン、 またフルート好きなら一聴の価値があるといえるでしょう。


・WHY DIDN'T YOU TELL ME?!/SHLOMO GRONICH(72)

イスラエルでKAVERETが衝撃的なデビュー盤を出した前年に、 鬼才SHLOMO GRONICHが作り上げていた孤高の芸術作品。
ピアノ、フルート、ヴァイオリンが格調高いシンフォを奏でたかと思いきや、 突如狂ったように泣き叫び音楽を破壊しはじめたり... 振れ幅が大きく先の読めないまさに「プログレッシブ」な内容といえます。
クラシックからアヴァンギャルドまでを自在に行きかう 音楽性はオパス・アヴァントラにも通じるところがあるように思います。
リピートを重ねるごとに、イスラエル伝説の名盤NO NAMESの舵を切っていたのは SHLOMO GRONICHだったことが心底理解できるでしょう。


・INTENTIONS/YONI RECHTER(79)

イスラエルのプログレ・シーンを語る上で絶対に外してはならない 天才アーティスト、ヨニ・レクターのソロ作品。
叙情的なメロディ、素朴な歌声にイスラエルの特色ともいえる カンタベリー風味が入り混じった傑作として紹介されることが多いですが、 それだけでは本作の偉大さは表現できません。
クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、AOR、シンフォ、 シティ・ポップス、フュージョン...多彩なジャンルが絡み合っていて、 聴けば聴くほどとんでもない名盤であることに気付かされます。
作曲能力、編曲能力、演奏能力(特にピアノ)のいずれも桁外れです。
あまり語られることはありませんが、 ベース、ドラム、ギター...といった他のメンバーも 相当高度なテクニックを持っています。


・PEACE/ZINGALE(77)

以前国内盤で再発されていたこともあり、 辺境シンフォものの中ではかなりメジャーな存在である、 ツィンガーレ唯一の作品。
各パートがしのぎを削る血わき肉踊るジャズ・ロック風インストパートと、 たおやかな叙情的歌ものパートを見事に組み合わせた トータル・コンセプト作品に仕上げています。
豪華8人編成のうち歌がやや弱いものの、 様々な表情をみせるヴァイオリンと高速ドラミングが演奏をぐいぐい引っ張っていくので、 アルティ・エ・メスティエリにたとえられることも多いです。
国内再発されたもののとっくに廃盤となり相当レアな存在だったのですが、 イスラエル本国にて近頃ボーナス入り(オブラ・ディ・オブラ・ダみたいなポップな曲を6曲収録、 歌はヘブライ語!)で再発され入手しやすくなっています。
それにしても彼らが25年以上も前にコンセプトに掲げた「平和」が イスラエルに訪れるのはいつの日になるのでしょう?


 オーストラリア

・SURFACE TENSION/ALEPH(77)

セバスチャン・ハーディを始めとするマリオ・ミーロ絡みの作品が 有名なオーストラリアのプログレ・シーンにあって、 知名度は低いながら、内容ではマリオ・ミーロ関連作に引けを取らないどころか 上回っているのでは?と思わせるほどの完成度を誇る名盤。
高度なテクニックもさることながら表現力豊かなメンバー6人による 豪華なアンサンブルで、ハードに畳み込んだり、ゆったり泣いてみたりと 起伏が激しく密度の濃い演奏をたっぷりと堪能することが出来ます。
イエスをよりドラマティックかつメロディアスにしたような感覚は ETHOSあたりにも通じるように思います。 とにかくシンフォファンなら必ずや魅了されることでしょう。
キーボード奏者は2人とも女性です。きっとライブ映えしたことでしょう。 (その前にライブ活動をしていたかどうかは疑問ですが(笑))


・FOOLS PARADISE/MADDEN & HARRIS(75)

オーストラリアのフォーク・デュオによる幻の名盤。
一応フォーク扱いされているものの、シンフォニックな組曲に挑戦したり、 メロトロン、ピアノ、シンセ...といった多彩な鍵盤楽器を重ねたり... フォークの枠を簡単にぶち破るプログレッシブな音楽性は、 他に類を見ない素晴らしいものです。
個人的には、繊細で叙情的なメロディとハーモニーが美しいフォーク部分は イギリスのTHE PARLOUR BANDに、とても少人数とは思えない実験精神とアイデアに あふれるポップ・センスはイスラエルのNO NAMESに通じるように思います。
フォークからシンフォ〜プログレへのアプローチを試みた作品の中で、 これほど高い完成度を誇る作品は他に思い浮かびません。
内容とは全然関係無いですが、ユニット名からスティーヴ・ハリス率いる アイアン・メイデンを連想してしまうのは私だけでしょうか?!


・EPIC III/MARIO MILLO(79)

オーストラリアを代表するプログレバンドである、 セバスチャン・ハーディ、ウインドチェイスを率いていた天才ギタリスト、 マリオ・ミーロの1stソロ作。
単なるバンドリーダーのソロ作のレベルでは無く、 彼が率いてきたバンドの名作群をしのぐほどの完成度です (アルバムのスタンス的には、デイヴ・グリーンスレイドの1stソロと似ているように感じます。)
メロウなギターワークだけでなく、テクニカルな部分も持ち合わせており、 セバスチャン・ハーディとはまた違った魅力があります。
特に1曲目の出来はマリオ・ミーロ関連作品の中では最高傑作だと思っています。 3曲目のようなイセベルグ風シンフォフュージョン曲も格好良いです。
ギターの表現力は文句無しに素晴らしく、 ロイネ・ストルトとともにこのスタイルでは頂点と言っても良いでしょう。
ほぼ同時期に北半球と南半球で非常に似かよった性質の 天才ギタリストが出現していたということはなかなか興味深いです。
カイパ、フラワーキングス、ロイネ・ストルトファンは絶対に聴きましょう (逆もまた真なり!)


・FOUR MOMENTS/SEBASTIAN HARDIE(75)

オーストラリアを代表するシンフォバンドのデビュー盤。
オセアニアにおけるプログレの歴史はこの名盤から始まったと言って良いでしょう。
甘美なギターを中心に、多種多様なキーボード群、躍動するリズム隊が一体となって、 シンフォニックワールドを形成していきます。 スウェーデンのカイパ、 有名どころではキャメル(初期)に非常に良く似たタイプのバンドです。
カイパやキャメルと比較すると、バンド編成、大作指向、インスト比重の多さ、 さらにギターのフレーズ、ギターの音色...と様々な類似点を発見できますが、 ボーカルが弱い!という似なくて良いところまで似てしまっています!(笑)
アルバム全編を通じて、さわやかで聴きやすい作品なので、若干インパクトは弱めですが、 マリオ・ミーロの叙情的なギタープレイは今でも全く色褪せることのない 魅力に満ちあふれています。
ラスト作となってしまった2ndもこの1stと同路線の素晴らしい名盤に仕上がっています。
(当初は2ndを紹介していましたが、彼らの来日公演前に2枚のアルバムを 再度聴き比べて熟考した結果、 1stの方が若干内容が濃いと判断しレビューを書き直すことにしました。)


・SYMPHINITY/WINDCHASE(77)

オーストラリアの最重要人物であるスーパー・ギタリスト、 マリオ・ミーロがセバスチャン・ハーディの後に結成したバンド、 ウインドチェイス唯一のアルバム。
なんとなくアイアン・メイデンみたいなジャケットですが、 内容は極めて純度の高いメロディアス・シンフォとなっています。
まるでセバスチャン・ハーディがフュージョン/ジャズ・ロック色を取り入れて ややテクニカル寄りになったようなサウンドは、 リレイヤー期のイエスを連想させる部分もあり、 この時代を反映しているように思います。
他にも、オープニングがクエラ・ベッキャ・ロカンダの2ndに似ていたり、 哀愁のヨーロッパのシンフォ版みたいな小曲 (決して悲しい色やねのシンフォ版では無い!) があったりと随所にプログレ心をくすぐる箇所があります。
バンド名がセバスチャン・ハーディの2ndタイトルと同じで混同しやすいですが、 この時代のマリオ・ミーロ関連作品に外れは無いので、 万が一間違えて購入してもなんら問題無いでしょう!(笑)


 ニュージーランド

・CLOCKWORK REVENGE/AIRLORD(77)

ニュージーランドのプログレ・バンドによる ジェネシス影響下のシンフォ傑作。
ヒネリのきいた展開、叙情的なハケット風ギター、 狂気じみたガブリエル風ヴォーカル... ジェネシスを細部まで研究した成果が 音からにじみでています。
ただ単なるフォロワーに留まらず、 本家には無いハード・ロック的な側面を持ち合わせているのがポイントで、 時折せわしなく疾走する場面では心が躍ります。
アルバムに散りばめられた演劇性や毒気は ジェネシスだけでなく、同国のスプリット・エンズの影響も あるのかもしれません。
1曲目の出来が素晴らしすぎて、その後が印象に残りにくいのが ちょっぴり残念ですが、オセアニアの名盤としては外せない一品です。


 日本

・LIVE/CARMEN MAKI & OZ(78)

驚異の女性ロックボーカリスト、カルメン・マキ率いる ハードロックバンド、通称マキオズ!の2枚組ライブである。
基本的には切れ味の良いヘビーなギターを軸としたハードロックだが、 変拍子を多用したり、オルガンやシンセが大活躍したり、 展開が激しく変わるドラマチックで10分を越えるような大作が多かったり してプログレファンにも充分アピールするバンドである。
このアルバムは、歌、演奏内容、その他全てが、 スタジオ盤より数倍高いテンションで展開されており、 このライブ盤にバンドのすべてが詰まっているといって良いでしょう。
神秘的で美しくドラマチックな超名曲「Image Song」 (以前この曲がどうしてもやりたくてマキのコピーバンド作りました)、 恐ろしいまでに異様な迫力でせまる 「閉ざされた町」(子供が聴いたら泣くぞ) ラストの17分を越える「私は風」など数々の名曲が次々と演奏されている。
ヘビーで歪みを効かせた、アクの強い主張する川上茂幸のベース、 エッジ鋭く、ハードでかつ情感豊かな春日博文のギターなど 個性的なメンバーにがっちり支えられた演奏の中を マキの素晴らしい歌声が縦横無尽に響きわたる。
なんといっても主役はマキの歌!これにつきる!
迫力十分、圧倒的な声量、そして説得力、 これからも日本で彼女を越えるような 女性ロックボーカリストは現れないでしょう...
近年、増上寺にて、マキのライブを最前列で見たが、 歌の上手さは全く衰えていなかった。
彼女は、何度も一線から退いては復帰してアルバム出したり、 ハードロックはやらないと宣言して 子守歌系、アコースティック系のソフト路線を歩んだかと思えば 結局またハードロックを歌ってたり... きっと、一生涯歌手であり続けるんだろう。
マキの原点である、 故寺山修司が構成、作詞(詩の内容が生々しく心の奥底に響く、さすが寺山修司... 「だいせんじがけだらなよさ」は名文句!) を担当した 「真夜中詩集−ろうそくの消えるまで」(1969、マキは当時18歳!)は OZとは全く違ったフォーク路線であるが、 「時には母のない子のように」(なんと年間チャート9位の大ヒット)、 「山羊にひかれて」などの名曲を収録。 曲間にはさまれたマキの語りに赤面する箇所もあるが、 全編を通じて漂う、あの時代そのものの暗い湿った雰囲気がなんともいえない...
ハードでパワフルな歌い方はしていないが、 このころから歌のうまさは際立っている。
本当に歌がうまい人は、どんな歌い方をしても、どんな曲でも 自分のものとして消化できるんですね。


・DEAD END/GODIEGO(77)

モンキーマジック、ガンダーラ、銀河鉄道999... 数多くの大ヒット曲でお茶の間にもお馴染みのゴダイゴが 西遊記での大ブレイク前に人知れず発表していた日本ロック史上に残る名盤。
様々なジャンルのエッセンスを盛り込み、豊富なアイデアを詰め込んだ楽曲も、 ミッキー吉野(特に躍動感あふれるピアノは格別!)をはじめとする 卓越した技術力、表現力を持った凄腕メンバーによる演奏も、 素晴らしいの一言に尽きます。
日本人離れした楽曲、演奏に加え、歌詞は全て英語なので、 もしタケカワユキヒデの歌が出てこなかったら、 誰もゴダイゴだとは(というより日本のバンドだとは)気付かないような気がします。 ただ、このタケカワユキヒデの優しい歌声の癒し効果で、 暗く重苦しいコンセプトながら、さほど暗さを感じさせない内容に仕上がっているといえます。
ラストの感動的なバラードは、泣きまくる歌メロ、美しい女性コーラス、 駆け巡るシンセ、劇的なオーケストレーションから どうしてもインドネシアのCHRISYEの名盤BADAI PASTI BERLALUを思い出してしまいます。 (ラストのキーボードだけはミッキー吉野じゃなくてヨッキー吉野ですね!(笑))


・GOLDEN PICNICS/YONINBAYASHI(76)

日本を代表するプログレバンドといえば四人囃子をおいて 他には考えられないでしょう。
彼らの最高傑作である2ndでは、 近年、超売れっ子プロデューサーとなっているベースの佐久間正英 (BOOWY、GLAY、Judy & Mary、筋肉少女帯、黒夢等をプロデュース) 伝説の名ギタリスト森園勝敏ら、 各メンバーの才能が見事に作品に反映されている。
日本ロック史に残る金字塔的作品、 1stの「一触即発」(今は無き東宝レコード!の作品、 再発では代表曲「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」を収録、 これで1500円はお買い得!)では DEEP PURPLE + PINK FLOYD + はっぴぃえんど?といった感じの サウンドであったが、 本2ndでは完全にオリジナリティを確立、 収録曲全てがそれぞれ全く異なったタイプの曲であり、 音やアレンジもあか抜けて、非常にきらびやかな印象を受ける。
ギター、ベース、キーボードの音色も独特で、 アレンジに凝りまくっており 効果音を随所に入れるなど、遊び心も含め あふれんばかりのアイデアがこれでもかといわんばかりに詰め込まれていて アルバム全面から楽しさがひしひしと伝わってくる。
この作品に関しては、同年代の他の国々の名作群と比べても 全く遜色無い素晴らしい出来だと思う。
特に素晴らしいのは 「カーニバルがやってくるぞ」(ノリの良い軽快な曲だが、 実際はかなり複雑な演奏がされている(難解さを感じさせないところは流石!) 、只今、自分のバンドでコピー中) 「なすのちゃわんやき」(変拍子をうまく取り入れた、 躍動感あふれる曲、ラストに向けて徐々に盛り上がる高揚感が 気持ち良い) そして、本作のハイライトである「泳ぐなネッシー」 (静と動の対比が美しく、 流れるように展開が変わり起承転結のドラマチックな世界を 展開する17分弱の力作!、 様々な音のコラージュは全盛時のフロイドのようでもある) あたりでしょう。
アルバム内の曲をテーマに描かれたジャケットアートも素晴らしい。
唯一の欠点はボーカルか?
73年8月の俳優座での、1st以前の貴重なライブ音源を収録した 四人囃子版アースバウンド!と言われる「73'四人囃子」は 音質も悪く、演奏もかなり荒いが(「一触即発」のラストは特にぐちゃぐちゃ!) ものすごいうねりやパワーが伝わってきて迫力満点。 とても生々しく、ヘビーなライブであり、 スタジオ盤とは違った一面に触れることができる。
近年、幻の1stである映画のサントラ「二十歳の原点」が 突然CD再発されたが、売り切れ店が続出したらしい...(誰がそんなに?) 結構根強いファンが多いってことなんでしょうか?...


 インドネシア

・ALAM RAYA/ABBHAMA(78)

インドネシアの数あるシンフォ名盤の中でも、 極めてユーロものに近いサウンドを構築している 叙情シンフォの名盤。
7人というメンバー構成を活かし、、 シンセ、ピアノ、フルート、アコギ...が カラフルかつ丁寧に美しい世界を描いていきます。
ハイライトはMALAMでしょう、 荘厳な雰囲気の中で繰り広げられる感動的なドラマは、 YOCKIEの名曲JURANG PEMISAHにも匹敵すると思います。
もちろんメロディは甘く切なく情熱的であり何度も心を打たれます。
オランダのメロディと東南アジアのパッションが 奇跡的な配合で掛け合わさったインドネシアだからこそ 生まれた奇跡の音がこのアルバムには詰まっています。


・SABDA ALAM/CHRISYE(78)

インドネシアのロック〜ポップス界の重鎮ボーカリスト、 CHRISYEによる歌物シンフォの名盤。
プログレッシブ・ロックとしての完成度では、 デビュー盤にして名盤であるBADAI PASTI BERLALU(CD化切望!)に軍配があがりますが、 歌物シンフォの美しさでは、CHRISYEの宝石のように透き通った歌声を 存分に味わえる本作2ndが勝っています。(結果的に1st、2ndともに名盤!)
スーパー・キーボーディスト、YOCKIEが全面参加していることから、 まるでインドネシア・シンフォ屈指の名盤JURANG PEMISAHの続編のような作品に仕上がっています。
インドネシア風の音階がユニークな熱帯系ポップ曲!もなかなか良いのですが、 YOCKIEの世界一優しいキーボード・オーケストレーションと CHRISYEの世界一優しいボーカルが溶け合ったシンフォ曲は、 例える言葉が何も見つからないほど美しく感動的です。
この相性抜群の2人を引き合わせた神様に感謝したいと思います。


・GOD BLESS/SAME(75)

70年代インドネシア・プログレの最重要バンド、3G(←私が勝手に命名しました!。 残りはGURUH GIPSYとGIANT STEP) の中でも最も成功を収め、2009年にもアルバムを発表しているスーパー・バンドの 記念すべきデビュー盤。
日本に紹介された際のキワモノ的イメージ(インドネシアだし、このジャケだし、 ジェネシス最高のギターソロFIRTH OF FIFTH(私も昔コピーしました!) をパクってるし...)が強いですが、 アルバムをじっくり聴くと、 欧米プログレ、ハード・ロックへの並々ならぬ情熱に圧倒されるとともに、 あまりにもまともでしっかりした内容に誰もが驚かれることと思います。
ACHMAD ALBAR、IAN ANTONO、DONNY FATTAH、YOCKIE(JOCKIE SURJOPRAJOGO)... といった優れたミュージシャン達が、 クリムゾン、ジェネシス、パープル、バニラ・ファッジ、 シカゴ、GG、グランドファンク...恐らく自分達が感動に打ち震えた音楽を 聴くだけでは物足りず、自ら表現してみたくなったのでしょう。 その衝動をなまなましく、決して格好つけることなく、 くそまじめに表現している姿勢には感動すら覚えます。
ちなみにCD化が待たれる2ndのCERMINはシンフォ度、演奏力が強力に強化され、 オリジナリティも確立された大名盤であり、 3rdのSEMUT HITAMも産業ロック化しつつレインボウを取り込むなど かなりの傑作となっています。


・DI BATAS ANGAN-ANGAN/KEENAN NASUTION(78)

インドネシアのプログレ・シーンの頂点であり原点、GURUH GIPSYの メンバーでもある重要アーティストによる1stソロ。
安易なインドネシア歌謡路線の楽曲も収録されてはいますが、 綺麗で前向きな歌メロとハートフルなヴォーカル、 彩り豊かでシンフォニックなキーボード・アレンジ(メロトロン入り!)、 時折のぞかせる都会的センスが一体となった楽曲が大半を占めています。
盟友CHRISYE、YOCKIEの同年代の作品と同路線であり、 名盤レベルでも決してひけを取りません。
特に、元BARONG'S BANDのメンバーでもあり実弟のDEBBY NASUTIONが関わった スリリングな名曲NEGERIKU CINTAKUは、 キーボード・シンフォ・マニア必聴と言えるでしょう。


・JURANG PEMISAH/YOCKIE(77)

デビュー盤でのGENESISのパクリ!(しかも2曲)が有名な、 インドネシアのロックバンドGOD BLESSのキーボード奏者のソロ作。
メロディ重視の素晴らしい楽曲、温もりを感じさせる優しいYOCKIEのキーボード、 情感たっぷりに歌い上げるGUEST STAR(と書かれてる!)のCHRISYEのボーカル (私にはどう聴いてもイタリア語に聴こえます!) ビートルズのFOR NO ONE風ホルン?など魅力満載の名盤です。
「辺境」=泥臭い、録音がチープ、演奏が下手...などと 聴く前に悪いイメージが先行しがちですが、 この作品では逆に「辺境」の強みがいかんなく発揮されています。 おそらく様々な国のいろいろな音楽が偏り無く入ってくるんでしょう。 いろんなタイプの曲が収録されていて興味深いです。
全体的には(特に前半)70年代初期イタリアの 情熱的な歌ものシンフォ(しかもレアもの)を彷彿とさせる内容 (中でも2曲目のアルバムタイトル曲はGREENSLADE+LATTE E MIELE風の超名曲)ですが、 4曲目はチェコのM.EFEKTが70年代後期にポップ化したみたいだし、 8曲目はトッド・ラングレンみたいだし、 9曲目はマンフレッド・マン・チャプター3(のVOLUME TWOのラスト曲)みたいだし... ただ曲によりイメージは違えども、アルバム内のどの曲にも共通して、 日本人の肌にしっくりくる心温まるメロディがぎっしり詰まっています。
その他特筆すべき点は、 インドネシアから連想されるイメージが全く無いことでしょう。 民族色が全く無いので、ユーロ・ファンのインドネシア入門編として 最適な作品といえます。
MAXOPHONE、LOCANDA DELLE FATE、ENGLANDと同時期に インドネシアで人知れずこんなにも音楽性豊かな作品が作り出されていたなんて、 YOCKIEをはじめインドネシアの方に失礼ですが、全く信じられません。 しかしそれぐらいすごい内容なのです。 一人でも多くのプログレファンに聴いて(そして卒倒して)戴きたい一品です。


 南アフリカ

・CONCEPT/CANAMII(80)

南アフリカ唯一の正統派シンフォ・バンドが残した名作。
アフリカらしさを感じさせるのは1曲目のパーカッションぐらいで、 基本は遥か遠く離れたイギリスのプログレ・バンドへの強い憧れを感じさせる 洗練された内容となっています。
シンセをはじめとする多彩な鍵盤楽器が幾重にも重なり合い、 粘っこいギターが絡みつき、 キュートな女性ヴォーカルがキャッチーな歌メロを歌い上げるスタイルは 大作こそないものの王道シンフォそのものです。 (ジャケットアートも気合入ってます!)
トレヴァー・ラヴィン、ダンカン・マッケイ...といった、 ワールドワイドで活躍するミュージシャン絡みの名盤と比べると さすがにB級臭さを感じるのは事実ですが、 アフリカという土地で無名なバンドがこれだけシンフォニックな作品を 作りあげたのは凄いことだと思います。
辺境シンフォを語る上では外せない一枚といえるでしょう。


・CHIMERA/DUNCAN MACKAY(74)

トレヴァー・ラビン、ダンカン・フォールと並ぶ、 南アフリカの偉大なアーティスト、 ダンカン・マッケイによるデビューソロ。
アルバムの最初から最後まで一切だれることがなく、 極めて高いテンションが維持されており、 めまぐるしく展開が変わるスリリングな演奏を思う存分楽しめます。
楽曲構成、メロディ、アイデア、演奏テクニック... 何もかもが素晴らしく文句のつけようがありません。
ギターレス、ベースレスのツインキーボード&ドラムといった、 超レア・バード、超グリーンスレイド(笑)とでもいうべき 変則編成も効果絶大...これ以上鍵盤が前面に出まくっている キーボード・シンフォは他に見当たらないでしょう。
ゲストが凄いことになっている2ndのSCORE(未CD化名盤界の最後の大物!)が 完成度では軍配が上がりますが、 若さに任せて湧き上がるアイディアを暴走気味に叩きつけている本作のほうが、 ダンカン・マッケイという類まれなる才能を リアルに肌で感じ取ることができると思います。



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